FrontPage/2012-02-23
厳冬期・西穂高岳~奥穂高岳 その3
夜半の雪は、膝下程度で多くはなかった。
テントを這い出ると、ちょうど前穂の山頂の左から朝日が昇ろうとしていた。
下界は雲海に覆われ、蒼天は我々の空だけにあった…。
暁の光が雪面を淡く染め、山々を一層美しく際立たせている。
風は昨日に比べれば随分穏やかで、絶好の縦走日和となることを約束していた。
しかし、予報は明日からの悪天を告げている。
今日中に安全圏に降りなければ、進退は極まるであろうことは容易に予測がつく。
はやる気持ちがありながら、それでも周りに広がる景色に見入ってしまう。
いつまでもここにありたい気持ちを抑えながら、一歩を踏み出す。
ジャンダルムへの登りは、1ピッチの短いものであったが、満足のいく支点は全く取れずやや緊張した。
最高の瞬間。
厳冬期のジャンダルムの頂は本当に素晴らしかった!
ジャンダルムに住む天使は今日もそこにあり私たちを癒してくれた。
目指す奥穂高岳も指呼の間である。
ジャンダルムを懸垂で降りてロバの耳とのコルに降り立つ。
ロバの耳はルンゼを下降して巻くのが一般的のようだが、今回はてっぺんまで登り、懸垂した。
懸垂のロープがスタックしそうになり冷や汗をかいたが、何とか回収できた。
危うい岩角に掛けた支点で登り返すなど恐ろしくて仕方ない。
夏季はなんてことない奥穂への登りも雪が着くと結構悪い。
越えてきたジャンダルムとロバの耳。
ようやく足元にした奥穂高岳の山頂。
ここまで近くに見えて本当に遠かった!
早くも天気は下り坂の兆しが見え始めたので足早に下山する。
半分雪に埋まった穂高岳山荘に着いたのが13:00。
予定では涸沢岳西尾根を下降するつもりであったが、それだとおそらく明日の悪天につかまってしまう。
3日間歩いてみて雪質はかなり安定していると判断し、白出沢を下ることにする。
上部は快調でどんどん高度を下げる。
気温は異常に上昇して完全に春山の様相になってきた。
白出大滝を懸垂下降する。
途中で不覚にもロープが絡まり時間がかかってしまった。
大滝から少し下ると、右から合流してくる沢から雪崩が走った。
私の前方50mほどである。
急激に上昇した気温が雪を溶かし、湿性の雪崩となって崩れたのである。
その前から、南面の笹斜面などの雪が少しずつ落ちてきていたので予兆はあった。
しかしこれほど大きいとは…。幅20m、長さ100mほどのデブリ。
大滝の下降でロープが絡まっていなかったら完全に巻き込まれていたであろう。
この先も同様の危険個所がまだまだある。
ここで判断に悩まされた。
このまま進むのは危険すぎるし、尾根に上がったり戻るのも明日の悪天につかまってしまう。
最終的に沢の北側の斜面に這い上がり、日が落ちて気温が下がるまで待ち、その後は夜間行動で下山することにした。
それが現状でもっとも安全な判断であろう。
斜面にある岩棚で時間をつぶすためにお茶を飲んでメシを食べる。
気温が下がってくるにつれて対岸の落雪も目に見えて少なくなってきた。
暗くなり始めたころに行動を再開し、ようやく林道へ。
そこから延々と暗闇の中歩いて、新穂高にたどり着いたころは21:00をまわっていた…。
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