FrontPage/2013-07-31
乗鞍・千町尾根
3000mを越える独立峰である乗鞍岳は畳平まで観光道路が延び、観光客がひしめいている。
最高峰の剣ヶ峰までも半分は林道をたどるもので、実質の登山道は1時間程度のものである。
最も登りやすい3000m峰と言われ9割以上の登山者が畳平から往復するだけだ。
しかし山というものは山麓から山頂に至るまでの過程を抜きにして語ることはできない。
山頂部分だけを楽しみたいのであれば、ヘリコプターにでも乗って山頂めぐりをすればよい。
かくいう私もガイドとして、畳平から剣ヶ峰の往復をこれまで9回行ったことがある。
10度目の乗鞍にして、初めて乗鞍岳の一端に触れることができたのかもしれない。
昨夜まで東海地方を襲った豪雨を平湯温泉に浸かりながらやり過ごし、早朝に剣ヶ峰へと向かう。
嵐の跡の夜明けはいっそう清々しく澄んだ空を見せてくれる。
日中は観光バスから吐き出されてくる登山者にあふれかえる登山道も、朝は静かなものだ。
山頂では強い風が吹いていたが、北アルプスの北部まで望むことができた。
目指す千町尾根は隣の、大日岳に遮られ伺うことはできない。
乗鞍山頂一帯の剣ヶ峰、大日岳、屏風岳、薬師岳、雪山岳、水分(みくまり)岳、朝日岳、蚕玉岳とつなげて、
お鉢廻りを出来るようにすればいいコースになるのだが。
剣ヶ峰を後にして、ガレ場を下ると大きなお花畑が現れる。
コマクサの楽園ともいえるここはいつまでもこのままであって欲しい場所だ。
喧噪の登山道から一歩外れるだけで多くの自然が残っている。
御嶽山を正面に望みながら下って行く。
遮るもののない雄大な展望。独立峰であるが故の特権。
緩く長く伸びる千町尾根。
何処までも続くハイ松の海を泳ぐように歩いていく。
どこか北海道の山を思わせる広々とした大らかな世界。
ところどころに信仰の名残が残っている。
昔の人と思いを同じにして、同じ道を歩く。
ハイ松の海を抜けると楽園のような奥千町ヶ原の湿原へと飛び出した。
コバイケイソウやニッコウキスゲが競うように咲き乱れていた。
人の訪れることの少ない湿原は原始の姿を残し、われわれを郷愁へといざなう。
ここへきてのんびり過ごすだけで命の洗濯ができるだろう。
さらに延々と続く尾根を歩き、急峻な丸黒山を越えて乗鞍青年自然の家へとたどり着いた。
大きくて遥かな乗鞍岳を味わうことのできた10時間の道のりであった。
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