FrontPage/2014-05-22
三鈷峰
富士山を登っている登山者が「富士山はどこ?」って聞いたそうだ。
その人がイメージしていた富士山の姿は伸びやかな裾野を持つ端正な姿だったろう。
遠くから見て美しい姿の山は、その山自体を登っているときにはその姿を見ることができない。
富士山においてはその最たるもので、悪く言えばただのガレた斜面が広がっているだけなのである。
伯耆・大山においてもそれは当てはまるだろう。
大山の美しい姿を望むには一歩引いてみなければならない。
三鈷峰は大山を眺めるにあたって最高のロケーションに違いない。
大山神社の奥に広がる森は神秘に包まれていた。
一筋の光が私たちの行く先を導いている。
眩い陽光を目指して息を切らせて登って行った。
下宝珠越えに出ると雪渓を渡ってきた涼やかな風が心地よかった。
稜線ではブナの新緑のなかにダイセンミツバツツジが群生していた。
短い雪渓を上り詰めるとガスの中から青空が見え始め、大山の姿が浮かんでいた。
最後の岩場を過ぎれば三鈷峰は間近。
振り返れば大山がひときわ大きい。
山頂からは大山北壁が圧巻である。
北壁は絶えず崩壊をつづけ、谷に落石の音が響き渡っていた。
絶海に浮かぶ孤島のように大山だけが雲海から姿を現しその威容を誇る。
再び大山神社へと下ると、朝の柔らかな日差しから力強い日差しへとかわって明るい森へと姿を変えていた。
雪渓で冷やされた風と太陽に温められた風がせめぎ合っている。
爽やかな風が緑の回廊を吹き抜けていた。
そこには神が宿っていた。
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