FrontPage/2014-06-17
谷川岳縦走 三国峠~平標山~谷川岳
ハルセミの声がブナの森いっぱいに満ち溢れていた。
古い峠道は歩き易く、息を切らすことなく峠へ導いてくれた。
峠に建つ神社の鳥居は、3月に来たときは頭をわずかにのぞかせるだけであったが、
今日は当然のことながら3mほどの高さがあって、改めて冬の積雪の多さに驚かされた。
三国山を越えると初めてこれから歩く尾根道と明日縦走する主稜線を一望することができた。
目の前の山は若葉に覆われ青々としているが、奥の稜線はまだ雪が解けたばかりのようで茶色味がかっている。
初夏の厳しい日差しを受けながら大源太山を越えたあたりから、急に青空はなくなっていつしか腕に冷たいものが当たり始めた。
少し歩を早めてなんとか山小屋へたどり着くと雨は本降りとなった。
夕立は一時のもので再び太陽が姿を現すと仙ノ倉山の西に延びる尾根に虹が孤を描いた。
平日の小屋は混み合うことはなく、この辺りの山々を愛する人たちが集っているようでおのずと話も弾んでいた。
長い一日の始まり。
まだ夜が明けぬうちに握り飯をほおばって早立ちとする。
外は存外寒くはなく、ベンチで仙ノ倉山と朝焼けを眺めながら飲むコーヒーは格別であった。
平標山と仙ノ倉山の鞍部にはこの辺りで一番大きなお花畑が広がっている。
朝露が朝日を映してきらめいている。
月は名残を惜しむように独り空の高いところで光を残していた。
咲き始めのハクサンイチゲがあたりを覆っていた。
朝の光は優しく風も涼やか。
仙ノ倉へと続く道は広く、どこか東北の山を思わせる。
でも穏やかな道はここまで、その先は激しいアップダウンが待ち構えている。
大きく下ってエビス大黒の頭へ向かう。
振り返れば仙ノ倉山が大きい。
仙ノ倉山の北尾根が優美な曲線を描いて誘っている。
いつか雪の残るころにあの尾根を歩こうと心にきめた。
赤谷川本谷の源頭には多くの雪渓が残っていた。
稜線近くまで傾斜がゆるく大らかな沢だ。
雪渓の下には険しいゴルジュや大滝が秘められているのだろう。
万太郎山へたどり着く手前にも大きなお花畑があって風景に彩りを添えている。
昼の太陽に負けじと白く輝いている。
ハクサンコザクラが多くの花をつけて、まるでクリンソウのように咲いていた。
よほど栄養条件がよく環境に恵まれているのだろう。
この岩だらけで水分も少ないであろう稜線だというのに。
オジカ沢の頭を越えれば肩の小屋は近い。
振り返ればいくつものピークの果てに仙ノ倉山が佇んでいた。
全ての頂上を巻くことなく忠実に稜線をたどるダイナミックな縦走路。
いつもはにぎわいを見せる谷川岳も今日は誰もいない。
理由はロープウェイが運休しているから。
おまけに肩の小屋の管理人も下山していない。
そのため、重い食糧と寝袋をはるばる担いできた。
しかしその代り貸切の山小屋と静寂の谷川岳を堪能することができた。
いつもは人の溢れる谷川岳。
ロープウェイは便利だが、谷川岳の魅力を半減させているのではないだろうか。
少なくとも今日の谷川はいつもよりよっぽど身近にあって私に多くのものをくれたのは間違いない。
下山に使った田尻尾根にはとても大きなブナの切り株があって目を見張るものがあったし、
途中に見えた西黒沢の青い水や大きな滝をこれまで見逃していたことを少し勿体なく思った。
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