FrontPage/2015-07-07
点の記
日本地図最後の空白地帯を埋めるべく、陸軍測量隊は剱岳登頂を目指した。
幾多の困難を越えて、最後に登頂するに至ったルートが長次郎谷である。
梅雨空の合間を縫って、剱岳「点の記」のルートをたどった。
梅雨真っ只中の剱沢は閑散としていて、夏の盛りの賑わいを想像できないほどだった。
小屋も知り合いのガイドのみでゆったりと利用させていただいた。
偶然、映画「点の記」の撮影に携わった多賀谷ガイドもいて、撮影の様子や苦労を窺うことができた。
朝起きると昨日まで山を覆っていたガスも上がり、山の姿は惜しげもなくさらされていた。
長次郎谷の出合まで雪に埋め尽くされた剣沢を下る。
残雪は豊富で下を水が流れているこが信じられないくらいだ。
長次郎谷は源次郎尾根と八ツ峰に挟まれた長大な谷でその圧倒的な景観は日本で有数のものである。
谷の両脇を屏風のように岩壁が連なり、その一つ一つの岩が鋭く天を指している。
測量隊のメンバーはどのような思いでこの雪渓を登ったのであろうか。
期待か不安か。
おそらくその両方であったろう。
我々も同じ思いを胸に抱いて、一歩一歩ステップを刻んでいく。
スケールの大きさ故、近くに見える稜線はなかなか近づかない。
長次郎のコルの手前は雪渓がズタズタに切れかけていて、もうしばらくすると通過は困難になるだろう。
今日はなんとか雪が繋がっていて大きな苦労なく通過することができた。
コルから快適な岩稜歩きで山頂へ飛び出した。
遠く富山湾や毛勝山から続く北方稜線を望むことができた。
吹き上げる風は重く湿り気を多分に含んでいる。
南の空は黒い雲が覆っていて雨が降っているようだった。
剱沢や室堂平はまだまだ地面より雪に覆われた面積の方が多い。
そのまだら模様がなんとも不思議に美しい。
だまし絵のようであったり、なにか動物が隠れていそうで見飽きることがない。
陽のあたる斜面ではすでに多くの花が夏を待ちきれずに咲き始めていた。
往時の苦労とは比べるべくもないが、未だ剱岳は登山者に試練を与え、同時に大きな感動をもたらす。
我々もその一端に触れることができたのかもしれない。
多くのドラマがここで生まれ、人々の心に刻まれている。
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