FrontPage/2011-01-13
SNOW PARADISE EPISODE.6 (厳冬期飯豊連峰縦走記)
23:30。天幕の圧迫を感じて目覚めると、またもや雪に押しつぶされようとしている。
意を決して吹雪の中、除雪する。
風が強く雪を巻き上げ、顔に雪がまとわりつき、肌に着いた瞬間溶けて顔を濡らす。
顔面が凍りつきそうで目も開けられない状態で必死に雪をかく。
翌2:00。再び目を覚ますと、先ほどとまったく同じ状況。仕方なくまた除雪する。
この時、またもや悲劇が起きた!
雪の重みでたわんだ天幕に乗る形で除雪したため、下部の生地が20cmほど裂けてしまったのである…。
裂けた部分から雪が吹き込んでくるので、二人で必死におさえる。
条件が悪く、装備も限られているので補修も不可能。とにかく手で押さえる。
もっとも原始的な方法しかない。
しかもこの天幕は今回のために新調したものでショックは倍増である。
しかしながら二時間おきの除雪ではたまったものではない。
どうやら天幕を設営した位置に問題があったようだ。
風を避けるために小屋の陰に張ったのだが、窪地状のため雪がどんどん吹きだまるのである。
むしろ風があたる場所の方が、雪が吹き払われてたまりにくいのだ。
除雪の度に雪まみれになり、中に入るときにどんなに雪を払っても、雪は侵入してしまう。
したがってどんどん寝袋やマットは濡れてしまう。
これではたまらないので、決死の覚悟で天幕の位置を移動する。
下手をすると天幕が吹き飛ばされてしまいそうな強風の中、拷問のような土木作業を強いられる。
移動を終えると雪につぶされる心配はなくなったようだった。
しかし天幕が破けたことで今後の縦走の不安要素がまた一つ増えてしまった。
夜が明けても、吹雪は一向に収まる気配はなく。しばらく様子を見ることとする。
寝袋に入り、じっと外の風の音を聞く。風は吹き荒れ天幕を揺らす。
時折、雪崩ともつかない響きがこだましている。
漫然と寝入るでもなく、ただ朝を待っていた…。
この時、二人は完全縦走をあきらめたのである。
要因はさまざまだが、天候の見込みのあまりの悪さ、避難小屋の不安、最後の砦である天幕が裂けているなどが挙げられる。
今振り返ってみれば、あきらめるのは早かったかもしれない。
だが、当時の我々たちは想像以上に切羽詰った状況に追い詰められている心境であった。
こうして目標を「完全縦走」から「悪天に捕まり閉じ込められる前に退避する」に変更したのである。
だが退避が容易でないのが冬の飯豊連峰である。
「行きはよいよい帰りは怖い…」。
そしてこの後、それをまざまざと実感することになるのである。
つづく・・・
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