FrontPage/2011-01-14
SNOW PARADISE EPISODE.7 (厳冬期飯豊連峰縦走記)
入山4日目。吹雪の中、夜明けを迎える。
今日の行動は現状では不可能。しばらく様子をみることとした。
それでもあたりが明るくなってくると、自然と気分が落ち着き安心感が生まれる。
太陽の力というものは偉大で、人間の本能に働きかけるのだろう。
さらに食事をするとやる気まで湧いてくる。現金な体である。
8:00くらいになると風が弱まるようになった。ただし、弱まると思うとまた激しく吹くという繰り返しだが、
少しずつ弱い時間が長くなってきた気がする。
最早、撤退することは決定していたので、あとはタイミングを計るだけである。
今日、停滞して回復が予想される明日行動するという手もあるが、予想が外れたとき代償が大きい。
やはり少しでも行動できるうちに少なくとも稜線から退避するべきであろう。
稜線から東側に下れば、まともに風を受けることもないだろうし、樹林帯に逃げ込める。
天候がやや回復に向かっていると判断し、出発することにした。
天幕を撤収しているときに「ゴォー」という音を聞く。
先ほどまでは雪崩の音と思っていたが、どうやら雷のようである。
雪山で雷鳴を聞くのは珍しい。
やや躊躇したが、天幕は撤収してしまったので、様子をみながら歩き出すこととした。
梅花皮岳への登りにかかる。
猛烈な吹雪ではないが風は強い、ガスに覆われており周囲はホワイトアウトしている。
地吹雪も合わさり、数メートル先を行く相棒の姿もかすんで、自分の足元さえ見えなくなるほどだ。
それでも登りは雪庇にさえ気を付ければ迷う不安はない。
梅花皮岳へ登りつくと、一度下り烏帽子岳へ登り返すが、雪に覆われた白い斜面が広がっていて天地もつかない。
コンパスと地形図、勘をたよりに足を進める。
時折、行く手が垣間見えるのでその瞬間、進むべき方向と地形を覚え込む。
烏帽子岳からは「くさいぐら尾根」を下降する。
夏季にその存在を確認していた私は明瞭な尾根が続いていることは知っていたし、
烏帽子岳までいけばその尾根に乗ることはさして難しくはないと思っていた。
しかし現場に立っているとその認識の甘さに気付かされた。
ピーク状の烏帽子岳北峰に立つと、360度真っ白な世界が広がっている。
どこまでが地面でどこからが空なのか区別がつかない。
コンパスで方向を確認するも、すぐそこが崖なのか尾根なのか分からないので、足を踏み出す勇気がもてない。
いや、そんなリスクは冒せない。ここでのミスは死に直結するからだ。
そんなこともあり、やや緩やかな斜面を選んで下降していく。
しばらく下り、方角を確認すると大分ずれていることに気付く。
修正するために斜面をトラバースするが、次第に急になる上、雪も深くなる。
稜線では吹き払われていた雪が風下側では大量に積もっているのである。
次第に急になる斜面を横切っていくと、30cmほどの雪崩の破断面が現れる。
破断面とは雪に亀裂が入り、そこから下が崩れ落ちたことを示すものだ。
つまり雪崩の起きた跡である。
きれいに残っていることから、まだ発生して時間がたっていないことが分かる。
緊張が走り、胸が高鳴る。
この場にとどまることは当然危険だが、その先のまだ雪崩れていない斜面を横切るのは非常に怖い。
ともかく一刻も早く尾根に乗ることだ。慎重に…。
おそるおそるトラバースを続けると足を踏み出した箇所から雪面にクラック(亀裂)が深々と走る。
一度心臓が止まるが、かろうじて雪崩れては行かないようだ。
この時ばかりは運を天に任せるしかなかった。
まったく視界がないので尾根を過ぎてしまったのでは?と不安になる。
とにかく進むと明瞭な尾根に出た。
ようやく下降路の「くさいぐら尾根」に乗ることができた。
尾根上は稜線から降りた風下側の尾根であるので風当りは弱いと踏んでいた。
しかしそんなことは一向になく、強烈な風雪にあおられる。
慎重に方角と地形を確認しながら高度を下げる。
この「くさいぐら尾根」は曲者であった。
すこしでも痩せている場所は吹き抜ける風が大きな雪庇を形成する。
風の弱いところは雪が吹き溜まり、猛烈なラッセルだ。
幅の広い斜面はいかにも雪崩れそうな角度で大量の雪が積もっている。
樹林帯に入ると腰までのラッセルに加えヒメコマツのヤブが立ちはだかり行く手を阻む。
これが、標高300mまで容赦なく続いているのである。
全く油断のならない尾根である。
ヘトヘトになって標高800m付近に幕営した。
つづく・・・
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