FrontPage/2014-01-08
「冬のリシリ」 その2
島の外周を巡るバスを降り出発の準備を整えていると、
どこからともなく土地のお婆さんがやってきて
「おめらやまさいくんかえ~、こっからならちけえからな~、き~つけてな~」
と声をかけ、またどこへともなく去って行った。
東京に住むものなら今すぐにでも遭難届を出しそうな環境の中、近所のお散歩感覚で(実際その通りだが)何気なく歩いていく。
北海の波頭は砕け、雪原には地吹雪が流れていた。
しばらくするとタクシーが着き、二人の登山者が降りた。
聞けば彼らは東稜を登る予定であるという。
尾根の取り付きまでの林道のアプローチは同じなので、ラッセルの負担は軽くなり嬉しい限りであるが、
反面少しがっかりとした気持にもなる。
アフトロマナイ川に沿った林道を歩いていく。
北海道の山岳会であるという二人は流石にラッセルが強く、どんどん進んでいく。
一方、私は移動疲れからかあるいは精神的な気負いなのか分からないが調子が上がらず脚が重い。
おおむね膝程度の深さのラッセルで周囲の積雪も特別多くは感じられない。
風も穏やかで薄日が差すような陽気で、厳しさを想像していたのだがいささか拍子抜けの感がある。
尾根の取り付きで北海道パーティーと互いの健闘を祈って握手を交わし別れた。
取り付きは腰まで埋まる新雪で尾根に乗るまで苦労したが、尾根上は雪もある程度しまっていて高度を稼ぐことができた。
風で飛んでしまうせいか、ところどころ笹が出ているほどで雪深さは感じられない。
「上に行けば更に風が当たるはずだから、もっと快適に歩けるかもしれないと」内心ほくそ笑む。
少々早いが、700m付近で適当な場所があったので雪洞を掘る。
風もそこまで強くないので、穴を掘るまでもないように思えたが、先人の失敗を反面教師にしてきちんと穴を掘る。
(夜中にテントが倒壊寸前となり危機を迎えたパーティーがあった。)
北海道組も利尻の風はすごいから必ず雪洞は掘ると言っていた。
雪洞内にテントを張ると、外の風も全く気にならず暖かく快適だ。
それに面倒な除雪の負担も激減する。
周囲を覆っていたガスも晴れ、山肌も露わになってきた。
山頂だけは頑なにその姿を現さなかった。
明日も今日のような天気なら、うまくいけば山頂まで行けるかもしれない。
眼下には日本海が広がり、稚内の町明かりや漁船の灯がきれいだった。
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