FrontPage/2015-01-06
厳冬期・利尻岳南稜 その1
それは不意に姿を現した。
海から緩やかに駆け上がる尾根は次第に荒々しさを増して、鋭く引き絞られた頂点へと導かれていく。
厳しさと共にある美しさ。
心奪われる神の山。
私の眼の前に惜しげもなく姿を現した利尻山。
それは初めて目にする全貌であった。
昨年の苦闘と蹉跌を越えて、今年もまたこの島へやってきた。
遂に見る隠れなき利尻の姿に興奮を抑えきれなかった。
南稜へ向かうには鬼脇よりヤムナイ沢に沿った林道をアプローチする。
利尻山南稜は利尻を形成する6本の尾根の中で最も長大でかつ美しい。
雪は膝下のラッセルで大きく潜ることはなく順調に距離を稼ぐことができた。
途中、広いヤムナイ沢をわたる場所で辺りが開けて、あらためて美しさに見とれる。
それと共に大槍から頂上へ向けての人を寄せ付けぬ激しい岩峰群に戦慄を覚えるのであった。
林道から南稜へ適当な尾根を選んで上がった。
深雪のラッセルを覚悟したが、存外雪が締まっていて苦も無く稜線へと導かれた。
雪の吹き溜まる東北稜とは積もり方が違うのか、あるいは今年の雪の量がすくないのだろうか。
稜線上は風に固められてアイゼンが欲しくなる雪面と膝まで埋まる柔らかい雪とが交互に現れて歩きづらかったが、
昨年の万歳ラッセルを思えば進むスピードは比べものにならない。
雪面に描かれたシュカブラが風の厳しさを伝えている。
日差しは強く汗ばむほどだが、ひとたび雲に隠れ風が吹けばあっという間に指の感覚が失われるほど体感気温の差が激しい。
歩みを進める度に大きさを増す大槍とバットレスに何度も足を止めて見惚れてしまう。
そのダイナミックな山容は北アルプスの裏剱の様相にも似るが、或いはそれ以上だろう。
これほどまでに鋭く屹立した岩峰群が真っ白な雪に覆われている不思議な光景。
高度差1200mを駆け上がり、本日の行動目標は十分達成できた。
風をよけるべく雪洞を掘ろうと試みるが、雪が少なくすぐに地面に突き当たってしまう。
やむなく尾根上にテントを張ってブロックを積み風よけとした。
夕方。ガスに覆われていた山は再び姿を現し、残照に浮かび上がる姿は凛として存在を主張していた。
陽が沈むと案の丈、暴風がテントを揺さぶり私達の眠りを妨げた。
つづく・・・
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