FrontPage/2015-01-08
厳冬期・利尻岳南稜 その3
P1とP2のコルで迎えた4日目の朝はバットレスの登攀へ臨む緊張感からか、
気づけば同じことばかり考えてしまっていた。
朝食や準備の最中も心ここに有らずといった感じであった。
それにしても動作は緩慢で集中できず、なかなか出発の準備が整わない。
そういえば昨年、仲間がテント内で一酸化炭素中毒になってしまったことを思い出した。
あわててテントの入口を開放して換気を行う。
しばらくすると先ほどよりも意識がはっきりしてきた。
やはり一酸化炭素中毒の兆候が出てしまっていたようだ。
テント内で火器を使う場合は特に換気に気を付けなければならない。
多少は入口を開けて空気を入れていたつもりであったが、十分でなかったらしい。
シングルウォールテントのため、テントの内側に霜がびっしりついてしまっていて
通気性が失われていたのも一因であろう。
そんなこんなで出発は大幅に遅れてしまった。
P1は容易に越えられると思ったが、雪の付き方が十分ではなく草付きにアックスをきめながら登っていく。
昨夜降り積もった積雪は不安定で、踏み込むと雪崩れていく。
途中の支点はか細い灌木と凍った草付きに叩き込んだイボイノシシだけだ。
意外に時間がかかりバットレスの基部に着いたのはお昼近くとなってしまった。
雪と氷をまとったバットレスは人を寄せ付けぬオーラを放っていた。
コルからやや傾斜の緩いミックス壁をたどり掘り起こした細い灌木を何本か利用してビレイポイントを作る。
2ピッチ目は核心部のチムニーへと突入していく。
トップは空身で登り、セカンドを迎えたあとに一度懸垂し、ザックを背負って登りかえす作戦だ。
傾斜の強い岩に雪と氷がびっしりまとわりついていて、それをいちいち落としてホールドを発掘していく。
アックスの刺さる氷や草付きを求めて、幾度となく試みるがほとんど岩に弾き返されてしまう。
岩は節理に乏しく、十分な支点を構築することは適わずランナウトを強いられる。
チムニー内は5分おきにチリ雪崩が襲い、その間は何も見えず呼吸すらままならない。
決して落ちることは許されないので、慎重にじわじわと高度を上げる。
時間をいくらかけようと安全に通過するのが一番大事と自分に言い聞かせながらの忍耐の登攀である。
なんとかハイ松テラスへと這い上がりセカンドを迎えるが、重荷を背負ったセカンドは相当に苦戦を強いられたようだ。
懸垂して登りかえしている間に日は没して暗闇の中、重荷に喘ぐ拷問のようなユマーリングとなった。
テラスへと這い上がるとパートナーの凄まじい土木工事のおかげで何とかテントを張れるスペースが出来上がっていた。
端は空中に浮いている恐ろしげなテントに潜り込み、ロープで確保を取りながらの一夜となった。
夜中、チリ雪崩が壁とテントの間を埋めてテントを圧迫し、壁から叩き落されないか不安だった。
つづく・・・
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