FrontPage/2016-05-06
厳冬期・剱岳北方稜線縦走記 その1
「 葛藤 」
そう呼ぶにはあまりにも答えははっきりとしていた。
それを悟った時、とめどなく熱いものがこみ上げて来た。
今まで必死に抑え込んでいた感情が溢れ出し堪えきることができなかった。
それでも幾度となく考えをめぐらせ、思いを反芻する。
本当にこれでいいのか?
後悔はないか?
妥協はないか?
困難から逃れたいだけじゃないのか?
重く苦しい一歩を踏み出す度にその答えはますます抗えないものとなっていくような気がした。
わずか水平距離1000m、標高差100mほどに3時間半以上を要していた。
通常であれば40分もあれば到達できただろう。昨日までは…。
一晩のうちに稜線は胸を没するディープパウダースノーに埋め尽くされていた。
ワカンを履いてもなお、底なし沼をいくが如く足を取られ、全力で立ち向かってもスピードは一向に上がらない。
体力の消耗とともに気力がどんどんと奪われていくようだった。
成功への渇望だけが前へ進む動力であった。
遅々たる歩みが、まとわりつく雪が、必死にしがみついていた希望を蝕んでいったのかもしれない。
力ない足取りで猫又山へたどり着き腰を下ろすとしばらく立ち上がることができなかった。
とうに気持ちの整理はついているはずなのに・・・
その先に続く北方稜線、雲に覆われた剱岳から目を離すことができなかった。
つづく・・・
コメント
- 北稜線はあこがれですね。。
【 べんさん 】 2016-05-07 (土) 08:31:38