FrontPage/2016-05-07
厳冬期・剱岳北方稜線縦走 その2
漆黒の闇を二筋の光が照らす。
右へ左へその光は躍るように激しく揺れ動いていた。
時折、無数の小石を叩きつけるような激しい音が耳を打つ。
私たちを乗せたタクシーは有無を言わさぬ勢いでスピードをあげエンジン音を響かせている。
深夜バスを黒部ICのバス停で降りると、車は30分もフライングして現れ
私たちよりもはるかに高いテンションで登山口へと走っていた。
一方、当方としては未明より降り出した激しい雨に気落ちし、少しでも出発を遅らせたい心持ちだったが
そんなことはお構いなしである。
車の屋根を叩く音は更に激しくなり、ヘッドライトには飛び散る霰が映し出されていた。
車に揺られながら今回の山行計画を思う。
毎年、年末には長期の雪山へ入ることを常としている私だが、
その中の候補としては剱岳は外せない山だ。
数年前にいった黒部横断は私の中に強烈な印象を残している。
再び、剱を目指すうえで理想的なラインとしては荒々しいピークを連ねる北方稜線が随一だろう。
通常、剱岳北方稜線というと毛勝山から剱岳を指すことが多いが、
地図を広げると毛勝三山の北にも脈々と稜線は連なっている。
完全縦走するからには末端の鋲ヶ岳から目指すのが最も理想的なラインといえるだろう。
幾多のピークを越えて剱岳を目指す。
遥かなる道のりである。
鋲ヶ岳~烏帽子山~僧ヶ岳~駒ヶ岳~サンナビキ山~滝倉山~ウドの頭~西俣の頭~毛勝山~釜谷山~猫又山
~赤谷山~赤ハゲ~白ハゲ~池の平山~小窓の頭~長次郎の頭~剱岳~馬場島
霰が霙に変わるころ道はシャーベット状の雪に覆われ、
先ほどまで地の果てまで進もうとする勢いであった車はあっさりと停車し、私たちを車外へと追いやった。
幸い登山口となる嘉例沢公園まではわずかな距離で、
全身ずぶ濡れとなる前にキャンプ場のトイレの軒下に逃げ込むことができた。
冬期閉鎖されたトイレの庇は小さく、霧雨状の雨は容赦なく荷物を濡らしていく。
やがて明るくなってくると周囲が霧の中にぼんやりと浮かび上がり、
きちんと雨をよけられる炊事場へと逃げ込むことができた。
寒さで震えながら待つこと3時間。
ようやく雨は小やみになり、私たちは重い腰をあげ、重い荷物を背負ったのである。
つづく・・・
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