FrontPage/2016-05-09
厳冬期・剱岳北方稜線縦走 その4
3:00起床。
5:30出発。
今日は昼から大荒れの予報。低気圧の襲来だ。
早立ちしてできれば僧ヶ岳を越えてしまいたい。
出だしは風も弱く視界もほどほどにあったが、高度を上げるにつれ風雪模様となっていった。
宇奈月からの尾根を合わせるジャンクションピークからは尾根は広く緩やかになるが、
樹林はなくなり風の吹きぬける風衝地である。
特に前僧ヶ岳と僧ヶ岳の間は通称・デスゾーンと呼ばれる強風地帯。
8:20に前僧ヶ岳(とおぼしきところ)を越えると立ち止まることを許されないほどの風となった。
日本海から吹き付ける風が稜線をなめるように越えていく。
広々とした仏ヶ平と呼ばれる鞍部は目標物はなくホワイトアウトの中、
コンパスの針が指し示す方角と地形図だけをたよりに慎重に進む。
時々現れるシラビソの影を頼りに周囲の地形を把握する。
もうじき僧ヶ岳の山頂だろうという場所まで来たが、これ以上は進めない。
僧ヶ岳山頂から駒ヶ岳へ向けて稜線は90度屈曲するが、この視界ゼロの状況では下降点を見出すのは難しいからだ。
まだ9:00であるが尾根の東側に雪洞をこしらえ低気圧が通過するまで堪えることとした。
例年よりはるかに少ない積雪のため、苦心して雪の多い場所を探し穴を掘る。
2時間後ようやくテントを入れられるだけのスペースを確保し、テントを張って中に入ろうとした瞬間、
天井が崩れ雪まみれとなった。
仕方がないので雪洞はあきらめ、樹林の影にテントを移す。
骨折り損のくたびれもうけである。
強風がテントを揺らすが幸いしらびそがブロックとなり吹き飛ばされることはなさそうである。
ラッセルと雪洞づくりでびっしょりと濡れてしまった装備を丹念に乾かす
3000mの稜線とは違って水分を沢山含んだ湿雪は装備を濡らすし、濡れた衣服は体温をどんどん奪う。
水の熱伝導率は空気の30倍。濡れ対策は非常に重要なのである。
夜の間中、風の音が大きかったが、朝になり待機していると次第に音は小さくなっていった。
40センチほどの新雪が積もっていた。
駒ヶ岳へ続く尾根がわずかに見え始めていたので意を決してテントをたたんで僧ヶ岳へ向かう。
以前、視界はなく手さぐりするように山頂へ泳ぐようなラッセルをした。
山頂から進むべき方向を慎重に判断して駒ヶ岳への鞍部へと下っていく。
雪面はところどころ氷化していてワカンでは歩きづらかった。
稜線の北側には巨大な雪庇が形成されていていつ崩れるのかわからない。
なるべく尾根の南側を巻くようにして進む。
ラッセルは膝程度で快調に歩を進めることができた。
駒ヶ岳の手前には急な雪壁が現れ、ダブルアックスで慎重に進んだ。
以前、視界はなく雪庇におびえながら駒ヶ岳の山頂に立つ。
ここからの下りも視界がなくては危険なので山頂の東側に幕を張った。
翌日は晴れ予報なのでしっかり体を休め明日に備える。
テント内ではなるべく水分を摂るためにお茶ばかり飲んでいる。
行動中はほとんど水を口にすることができないからだ。
脱水は凍傷や低体温症の要因にもなるし疲労も抜けにくくなる。
3:30に起きて外を覗くとまだ吹雪いていた。
山頂の雪庇が発達してテントまで迫っている。
朝から晴れると思っていたが、そううまくはいかない。
8:00頃ようやくガスが晴れ、周囲の山が姿を現してきた。
「トッチー早く行くよ!」
駒ヶ岳からサンナビキ山へ続く稜線。毛勝はまだ姿を現さない。
つづく・・・
コメント
- 絵を見ているだけで、まるで私自身の手先、足先、顔が凍傷になり、そして雪に埋もれて動けなくなっていくように感じます。暖かい日の阿弥陀で十分です。
【 亀崎明子 】 2016-06-01 (水) 11:15:11