FrontPage/2016-05-11
厳冬期剱岳北方稜線縦走 その6
連日の行動と昨日の残業の疲れで明日は少しでも天気が悪かったら停滞しよう。
そうテントの中で話し合っていた。
少々、寝坊気味に目を覚ますとテントの中はやけに明るく、
外へ顔を出すときれいな青空が広がり、まばゆいほどの光に溢れていた。
むろんこの好天を逃す手はない。
昨日までのホワイトアウトにはどれほど神経を削られたことだろう。
視界があるというだけで驚くほど快適だし、危険度は比べることができない。
出発の準備を整えていると出し抜けにそれは現れた。
想像を遥かに超えてそれは大きく気高く、神々しく立ちはだかっていた。
まるでヒマラヤの巨峰を思わせる風格を備え存在を誇示している。
頂上へと続く一条の道がはっきりと示されていた。
「天国への階段」と呼ばれるその道はまさしく名にし負うものであった。
ウドの頭(ズコ)は素晴らしい展望台だ。
背後には富山湾が広がっている。
私たちが目指す最後の頂がついに姿を現した。
多くの岳人を引き付けてやまない「岩と雪の殿堂」。
平杭乗越を経て西俣ノ峰への登りにかかる。
乗越の付近には縦横にケモノの足跡がついていた。
山の住人達も久々のいい天気に活発になっているようだ。
暑いくらいの陽気で流れる汗も心地よい。
厳冬のアルプスにおける一時の安らぎ。
夜を彷徨う旅人はラピスラズリに導かれ、蒼穹
(そら)を目指して昇っていく…。
つづく・・・
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