FrontPage/2016-05-12
厳冬期・剱岳北方稜線 その7
天国への階段は果てしなく続くかのように思われた。
気の抜けない雪壁に確実にステップを刻んで少しずつ高度を上げていく。
はやる気持ちを抑えながら、時々立ち止まって荒い呼吸を整える。
一歩ごとに目の前の雪を崩し、何度も足場を踏み固める。
幾度となくその動作を繰り返していると、まるで自分が機械になったように感じる。
無駄な動きをなくして、一定の手順とリズムを刻んでいく。
目の前が開けて緩やかな台地へと飛び出した。
そこには微かにそれとわかる尾根が陰影となって山頂へと続いていた。
ようやくたどり着いた毛勝山の山頂。
しかしここで全体の半分の行程でしかない。
朝のうちは穏やかだった天候が急速に悪くなっている。
できることなら今日のうちに猫又山へとたどり着きたい。
毛勝山の南峰からの下りは尾根が不明瞭でコンパスを頼りに下ったが、
尾根を外してしまいホワイトアウトの中、ルートをしばらく探す。
なんとか釜谷山へのコルを見出し、登りにかかる。
もはや視界は数メートルとなり雪庇におびえながらの登りとなった。
雪は吹き溜まり以外は割と締まっていてペースは上々であった。
東側は切れ落ちているので、なるべく稜線の西側を歩くように努める。
ホワイトアウトしているので稜線の境目が分かりずらい。
すこし東へ寄りすぎたかと思い方向を修正しようと思ったその瞬間。
私の両足の間に大きな亀裂が走った。
とっさに西側へ飛び込むと今まで歩いていた稜線が轟音と共に黒部の谷底へ崩れ落ちていった。
まるで映画のワンシーンのようであった。まさに危機一髪。
釜谷山へ着くと風雪は更に激しくなり、もはや猫又山へ向かう尾根は全く見いだせず
雪庇を踏み抜く可能性大なので山頂直下の台地に幕を張った。
夜通し、激しい風雪がテントを叩き続けた。
つづく・・・
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