FrontPage/2017-01-12
厳冬期 飯豊連峰敗退記 その2
日付を跨ぐ頃から激しい雨がテントを叩く。
降り始めが予報よりも少し早いようなので、その分早く過ぎてくれることを祈った。
明け方近くなると霙から雪へと変わっていった。
気温が下がって衣服を濡らさないような雪となったころ合いを見計らってテントを畳む。
しばらくは尾根伝いに樹林の枝先が見えているし、基本的に登りなので迷うことなく前杁差岳を目指す。
前杁差岳からは平坦な頂稜を行く。
ここからは風を遮ってくれるものは何もなく吹き上げる風がまともに体にぶつかってくる。
巻きあがる雪が視界を遮って辺りの地形を隠す。
辛抱強くコンパスの針と地形図を頼りに歩き杁差岳の山頂に立った。
山頂から僅かに下ると懐かしい避難小屋が姿を現した。
「この風では」と小屋に入ることも考えたが、時間も早いし風が抜ける分、
笹がところどころ顔を出しているから大きく方向を誤ることはないだろう。
何より何度も歩いている稜線だから地形は熟知している。
先に進むことを決めて小屋影で行動食を補給する。
鉾立峰、大石山を順調に越えて頼母木小屋を目指す。
ラッセルが次第にきつくなってきたが、風が強くまともな休憩はとれない。
最後のひと登りをすると頼母木小屋が氷をまとって佇んでいた。
冬季入り口は二階の窓。
梯子を登って窓にまとわりつくエビの尻尾をピッケルで丁寧に落とす。
凍り付いた窓は簡単には開かないが苦労の末、開けることができた。
中に入ると風から守られた空間にようやく生きた心地がした。
夜は昼にもまして風が強まった。
獰猛な唸りをあげて小屋を揺さぶる。
外は果たしてどうなっているのか?
風が止まない限りは行動はできない。
それでも小屋の中は守られているから身体を休めることに専念する。
雪に覆われた窓からわずかに明るさを感じられるようになる頃、
風の音が少し和らいだ。
下界の予報ではあるが、ラジオが天候回復の見込みを告げていた。
少しでも歩ける条件の時に進んでおくべきと小屋を出る。
出だしこそ行く先がぼんやりと伺えていたが、すぐに前後不覚のホワイトアウトとなった。
戻ることも困難なので同じ困難なら前に進もうと決める。
風も更に強まって目も明けられないほどだ。
ゴーグルはすぐに氷に覆われ役にたたなくなったが、
していないと凍傷になりそうだったので、時折装着して顔を解凍するために使う。
地形図頼りに登っていくが、地形は登っているかどうかしか分からないし、距離感もつかめない。
昨日まで頼りにしていた笹の葉も雪に覆われているところのほうが多く、自分の足元しか見えない状態で進む。
唐突に目の前に氷の塊が現れて、すぐにそれが頼母木山の山頂標識であることに気づいた。
氷をはがすと「頼」の文字が確認できた。
その先は風が稜線の雪を払い大まかな地形をつかむことができた。
風は相変わらず強いが、それに耐えさえすればどんどん進むことができる。
地神山、扇の地神と越えて門内小屋へ近づく。
小屋まであと少しというところでまたも完全に視界がなくなった。
地形も平坦で特徴がない。
コンパスだけを頼りに進むと一瞬、門内小屋の影が風雪の中に浮かび上がった。
思いの他、近くまで来ていたことに驚く。
再び見えなくなったが、そこを目指して進むと今度はしっかりと小屋の姿を確認することができた。
雪で埋まった二階の入り口を掘り起こして中に入ることができた。
まだ12時くらいであったが、辛うじて小屋に入れたような状況だったので
先に進むことは諦めて中にテントを張る。
風はあくまで強く、視界も回復しない。
結局、天気の好転予報は下界だけの話だったようだ。
つづく・・・
コメント