山岳ガイド 佐藤勇介のブログです。

FrontPage/2017-01-13

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厳冬期 飯豊連峰敗退記 その3



巨大なブルドーザーが出力を最大にして狂暴なブレードを振り回し小屋を土台から取り壊そうとしている。

轟音が小屋の中を支配し眠りを妨げる。


どれほどの勢いの風が吹けば、頑強な小屋を震わせることができるのだろうか?

一瞬、静かになったと思わせると次の瞬間、雷鳴が響き渡るような激しさで屋根をアラレが打ち付ける音がこだまする。


翌日の9時くらいに風の音が収まり、「もしかすると行動可能か」と思わせる。

試しに外へ一歩踏み出すとまともに目も明けられないほど雪が巻き上がって視界もなくすぐさま小屋へと舞い戻った。

昨夜の風はいかほどのものだったのか。


前線が通過するこの日は停滞を決め込み、ラジオを聞いて過ごす。

この先の長期予報は絶望的。向こう一週間は「大荒れ」か「風雪の荒れ模様」のどちらかしかない。


もはやこの先進めばドツボにはまることは明白。

冷静に考えれば、敗退することさえタイミングを逸すると困難になるだろう。


それでも外が静かになると「先にすすめるのでは?」とか
「御西小屋まで行けば何とかなるか?」とか「食糧と燃料が続く限りは粘らなければ」
なんて思いが持ち上がってくる。


再び、風の音が強まれば「行動するなんて自殺行為だ」「利尻の二の舞になる」なんて思いがその度に大きくなってくる。



その日の夜は風の音はなく本当に静かだった。


それでも過去の苦い経験が私を楽観的には決してさせない。

静かでよく眠れるときは決まって、目覚めるとテントがつぶれそうなほど雪が積もっていて
泳ぐようなラッセルを強いられるのだ。


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テントから出て窓をみると案の定、二階の窓は完全に雪によって埋没しているのだった。

雪を除いて外へ出ると風当たりが強く、ガチガチに凍っていた場所もどっぷりと深雪に覆われている。


予報では明日は再び前線が通過してその後冬型が強まるらしい。

脱出するならともかく今日以外ない。


意を決してテントをたたみ、小屋の戸締りをして足を踏み出す。

せめてすぐそこにある門内岳の山頂を踏んでいこうと歩き出すと一瞬で白一色の世界となった。


空と地面の区別はなくストックで突き刺して確認していかないと足を踏み出すことができない。

小屋から20mほどしか離れていない山頂には大きな社があったはずだが…
当然見えるはずはなく、とにかく今いる位置より高いところを目指す。


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ふいに氷の壁が現れたと思ったらそれは山頂に立つ社であった。

それがなければ山頂を探してしばらくあたりをうろついていただろう。


写真を撮ってひとまず小屋へ戻るべく踵を返すとすでに自分の足跡は風雪に洗われ跡形もなくなっていた。

下りは余計に進む手がかりがなく、コンパスの針と勘だけを頼りに歩くと何とか小屋の影を認めることができた。


小屋からは元来た北の稜線をたどる。

扇の地神まで戻って梶川尾根を下る予定だ。


コンパスの針を慎重に合わせて勇気を出して足を踏み出す。

純白の空間に勇気をもって進むと次の一歩が下りなのか登りなのかもわからぬ目隠し状態となった。

雪はワカンを履いても胸まで埋まるどパウダー。スキーヤーなら垂涎ものだ。


慎重に歩いていくと地形図を見て想像していた地形とも違う、第一おととい歩いた場所だから明らかな違和感がある。


進むべきか戻るべきか思案して振り返ると数分も歩いていないのに小屋はすでに見えなくなり、

すぐ後ろの足跡も見る間に消えようとしていた。


これ以上進むと小屋に戻ることもできなくなると恐ろしくなり、消えかけた足跡をだどって小屋へ舞い戻る。

明らかに地形がおかしいのは強風と大量の降雪が地形そのものが大きく変えてしまったとしか考えられなかった。


自分で閉めた小屋を再び開けて状況が改善するのを待つ。

待てども待てども天候はむしろ悪化するのみ。


なすすべなく門内小屋にて二日目の停滞となった。


つづく・・・


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